大判例

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仙台高等裁判所 昭和38年(ネ)54号 判決

控訴人(被告) 福島税務署長

訴訟代理人 朝山崇 外二名

被控訴人(原告) 昭和化学工業株式会社 破産管財人片岡政雄 外一名

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事実

控訴代理人は「原判決を取り消す。被控訴人の請求を棄却する。訴訟費用は第一・二審とも被控訴人らの負担とする。」との判決を求め、被控訴代理人において控訴棄却の判決を求めた。

当事者双方の事実上の主張並びに証拠関係は被控訴代理人において「控訴人の左記主張事実中被控訴人従前の主張に反する点を否認する。」と述べ、控訴代理人において別紙記載のとおり述べたほかは、原判決の事実摘示と同じであるので、これを引用する。

理由

当裁判所も原判決と同様の理由のもとに本件債権差押処分は不適法であつて、これを取り消すべきものと判断するので、原判決の理由記載をここに引用する。

なお、控訴人の当審における原判決に対する反駁について次に二、三附言する。

一、破産法第四九条および第五〇条(財団債権の随時弁済および優先弁済)の解釈の点について。原判決は右両法条の趣旨の解釈の前に、破産管財人の法律上の地位を論じ、結局破産制度の目的にかんがみて破産管財人は破産手続という一般的執行を主宰する公の執行機関たる性格を有し、その職務の執行のため広範な裁量権を与えられると共に、重大な責任を負わされている者であるとし、従つて財団債権の弁済についても破産法は右両法条の規定するところとその例外である同法第五一条、第二八六条の規定するところに則るべきほかは、あげて右のような破産管財人の権能と裁量に委ねているものと解し、この見解のもとに右第四九条、第五〇条両法条の趣旨を解釈しているのであつて、控訴人のいうように右両法条および第五一条、第二八六条の規定からいきなり結論を出しているのではない。

要するに原判決は破産法上破産手続は広範な裁量権を有する公の執行機関たる性格の破産管財人に主宰されており、財団債権といえどもその弁済は原則として破産管財人の自由裁量に委ねられているから、同法第七一条第一項のごとき特別の定め(同規定は、国税徴収法等による公租公課は破産法第四七条第二号によつて財団債権とされるから、もし右公租公課の滞納処分が破産宣告前に着手されている場合でも、破産宣告があれば該滞納処分を失効または中止せしめて破産管財人の手に移すのが本筋であるが、破産管財人の手により再び同様の執行を繰返えすよりは、該滞納処分を続行せしめた方が便利であるし、またこの場合続行せしめても破産管財人の前記職務と牴触するところが比較的少ないので、特に例外的に定められたものと解される。)のない限り、破産財団に属する財産に対し強制執行はできない趣旨を説いているのであつて、もとより正当な見解である。

二、国税徴収法第四七条第一項の規定の解釈について。この点についても当裁判所は原判決と法律上の見解を同じくするが、要するに右規定はその見出しの示すごとく滞納処分における財産差押の要件を定めたものに過ぎないものであつて、なるほどこの場合徴収職員に差押を義務ずけてはいるけれども、その条文自体の解釈からは破産手続を含む他の強制換価手続と競合した場合までをも予想して規定したものとは受取り難い。

三、破産管財人の職務に対する破産裁判所の謙抑主義について。しかしながら右謙抑主義は原判決もその傍論で説くごとく破産法第一六一条の解釈として採られるところの破産管財人に対する破産裁判所の監督権に関するもので、それ自体財団債権者の、権利行使とは直接関係のないものであるから、これをもつて原判決を攻撃するのは当らない。かりに被控訴人ら破産管財人が本件破産手続につき控訴人主張のような違法配当をしたとすれば、それが破産管財人の法律上の義務違反である限り、財団債権者は破産裁判所の右監督権(ことに同法第一六七条の解任権)の発動を促すか、場合によつては破産管財人の職務怠慢を理由に同法第一六四条によつて損害賠償の請求をするほかはないであろう。

よつて原判決は相当であつて、本件控訴はその理由がないから、民事訴訟法第三八四条、第九五条、第八九条に従い、主文のとおり判決する。

(裁判官 高井常太郎 上野正秋 新田圭一)

(別紙)

原判決は、破産宣告後は新たな国税滞納処分としての差押をなしえないから、本件差押処分は取消を免れないとされる。以下、従前の主張に付加し、控訴人のこれに承服しえない所以を明らかにする。

一、原判決は、財団債権が破産財団に属する財産に対し強制執行をなしうるのは破産法第七一条一項の如き特別の定めがある場合に限るとされる。しかし財団債権が破産財団に属する財産に対し強制執行をなしうるのは財団債権の随時かつ優先的弁済の原則の当然の帰結であり、同条項の反対解釈の余地なきことについては既に述べたとおりである(昭和三七年四月四日付被告第一準備書面添付別紙三、就中その(三)、なお中田淳一著破産法和議法(法律学全集三七)一四二頁参照)。

原判決は破産法第四九条および同第五〇条の趣旨は、財団債権の弁済が最後の配当前に行われるべきことを規定したのであり、破産法は破産手続の進行に応じ破産管財人が財団債権の弁済をなさないこともあることを予定しているとされる。しかし右両法条は、これを同法第五一条及び第二八六条の規定とあわせ考えると財団債権が破産管財人に知られている限り、その弁済は破産債権の配当手続によらず、同手続に優先して、かつ、同法第五一条一項本文の例外的場合を除き破産財団の額を顧慮することなく順次支払うべき旨を規定したものであり、最後の配当以前の時点において破産管財人に財団債権に対する任意弁済を拒否する権能を認めたのでもなければ、中間配当後破産財団に残存した財産の範囲においてのみこれを財団債権の弁済に当てるが如き恣意を認めたものでもない。

原判示は破産法の解釈を誤つたものといわねばならない。

二、原判決は国税徴収法第四七条一項の規定は同項各号所定の各期限までに国税を完納しないときは滞納者の財産につき差押をなすべき旨を定めるに過ぎず、他の強制換価手続と競合する場合については別個の規定に委ねたものであるから、同法条をもつて財団所属財産に対し強制執行をなしうる根拠とはなしえないとされる。しかし国税徴収法第四七条一項二号は国税通則法第三七条一項を、国税通則法第三七条一項一号は同第三八条一項を、また国税徴収法第四七条二項は国税通則法第三八条一項をそれぞれ引用しており、これを破産手続との競合についてみれば納税者の財産につき破産手続が開始され、納付すべき税額の確定した国税で未だその納期限の未到来であるものについては納期限を繰り上げ請求し、該請求期限までにこれを完納しないときに滞納者の財産を差押えるべきものであり(国税徴収法四七条一項二号)、納期限の到来した国税について督促状を発した日から一〇日間内に滞納者に破産手続が開始した場合には右同様差押えるべきものであり(同条二項)、また督促後一〇日間を経過しても完納しない滞納者について破産手続の開始の有無を問わず右同様差押えるべきものとするのが同条一項一号の規定である(蓋し督促後一〇日を経過した国税(国税徴収法四七条一項一号)を右期限未到来の国税(同条二項)及び繰り上げ請求にかかる期限の適用をうける国税(同条一項二号)と別個に取扱うべき理由は全くないのであつて右一号の規定は督促後一〇日を経過した国税について破産手続の開始がその後に差押をなすことを妨げない趣旨と解せられる)。

結局右四七条は単に差押義務発生時期を規定するにとどまらず、国税につきその差押適状の要件を定めるとともにその要件を満たすにいたつたときは差押がなさるべきことを明らかにしたものである。従つて右法条は滞納処分が他の強制換価手続と競合する場合を別個の規定に委ねる趣旨ではなく、右手続の競合する場合をも含めて右の趣旨を規定したものというべきであり、徴収職員は同法条により財団債権たる国税徴収の確保を計るため破産財団所属の財産に対し破産宣告後新たに差押をなすことを義務づけられているのである。そして国税徴収法第四七条一項が他の強制換価手続との競合の場合を規定したものであるか否かはもとより同法条自体の解釈によつて決すべきものであつて滞納処分と強制執行等との手続の調整に関する法律の存することは右法条の解釈を左右するものではない。右調整法は強制執行による差押がなされている物件についても滞納処分による差押をすることが許されることを規定するにとどまり、国税の差押適状を明らかにし、かつ差押適状にある国税について差押を義務づける右国税徴収法の規定とは規制の面を異にし、後者が前者にその規制を委ねたものではない。しかも右調整法はいうまでもなく破産手続との競合について規定しないのであるから同法が右国税徴収法第四七条一項の解釈を左右することにはならない。それゆえ右国税徴収法の規定のほかに破産手続との競合について、強制執行との競合における右調整法に相当する特段の規定が存しないことから直ちに破産手続との競合が許されないものと解したり、或はまた破産法七一条一項の反対解釈によつて滞納処分による差押を否定しうるとなすことは許されないのである。

また、国税通則法第三八条の規定が納税者の財産につき強制換価手続の開始された場合を、限定承認(同項二号)、法人の解散(同三号)等の場合と並べて規定していることは何ら右の結論を左右するものでないことは言うをまたない。

三、なお、破産管財人に対する破産裁判所の監督権について付言すれば、原判決は破産管財人に対する破産裁判所の謙抑主義を強調される。しかし原判決は何故に国税債権の財団債権としての優先的地位を否定し敢て違法な配当を実施しようとする破産管財人を解任せず監督権の行使を怠つた破産裁判所を弁護されるのか、交付要求にかかる本件国税債権が右破産管財人の違法配当により本来これに劣後すべき別除権のみならず一般破産債権にさえ優先しえなくなる結果をどのように解されるのか、国税債権のよつて蒙るべき損害は違法配当のなされたのちにおいて破産管財人に対する賠償請求によつては必ずしもその充分な回復を保し難いのであつて、原判決の結論に照し、右判示は弁解に非ずんば控訴人の不審に堪えないところである。

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